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便秘薬だけで終わらせない パーキンソン病の便秘を「腸」と「身体」から考える

こんにちは。
PDitスタジオ銀座本店、作業療法士の属(サッカ)です。

パーキンソン病の方からよく聞く悩みのひとつが、

「便秘」

です。

「何日も出なくて苦しい」

「便秘薬を飲めば出るけど、また便秘になる」

「水分や食物繊維には気をつけているのに出にくい」

という方も少なくありません。

もちろん、つらい便秘を我慢する必要はありません。
便秘薬も大切な治療のひとつです。

ただ、

「出ないから薬で出す」

だけではなく、

「なぜ出にくくなっているのか?」

にも目を向けてみると、普段からできることが見つかるかもしれません。


この記事でわかること

・パーキンソン病で便秘が起こりやすい理由
・「腸が動かない」だけではない便秘の原因
・排便に必要な「腹圧」と「力を抜く」という身体の働き
・股関節や骨盤周囲の動きと排便姿勢の関係
・「腸を整える」と「出せる身体をつくる」という2つの対策
・腸内細菌や短鎖脂肪酸とパーキンソン病の関係
・腸の状態と薬の効き方との関係


便秘薬は「緊急脱出装置」?

便が出ず、お腹が張って苦しい。

そんなとき、便秘薬を使って排便を助けることは大切です。

イメージとしては、

便秘という渋滞から抜け出すための「緊急脱出装置」

のような役割です。

ただし、これは「便秘薬を長く使ってはいけない」という意味ではありません。

便秘のタイプによっては、医師と相談しながら継続して薬を使用することも必要です。

そのうえで大切にしたいのが、

「薬で出す」+「普段から出やすい状態をつくる」

という考え方です。


パーキンソン病の便秘は「腸が動かない」だけではありません

パーキンソン病では、自律神経や腸管神経系などにも影響が及ぶことがあります。

そのため、

胃から食べ物を先へ送るのが遅くなる

大腸の中を便が進むのが遅くなる

といったことが起こります。

しかし、便秘の原因はそれだけではありません。

パーキンソン病では、大腸の通過が遅くなるタイプだけでなく、排便時に骨盤底や肛門周囲の筋肉をうまく協調させられないタイプがあることも知られています。

つまり、

「便を運ぶところ」の問題

と、

「最後に便を出すところ」の問題

があるのです。



「便は来ているのに出ない」こともあります

排便するとき、身体では意外と複雑なことが起こっています。

便を押し出すためには、

お腹の圧力=腹圧を高める

必要があります。

ところが同時に、

骨盤底や肛門周囲は適切に緩める

必要があります。

つまり、

お腹は力を出す

出口は緩める

という、一見すると反対の働きを同時に行う必要があるのです。

ところが、この切り替えがうまくいかないと、

一生懸命いきんでいるのに出口まで一緒に力が入り、

「便意はあるのに出ない」

ということがあります。

パーキンソン病では、このような骨盤底の協調障害が報告されています。

そのため、

「腹筋をもっと鍛えればいい」

「骨盤底筋をもっと締めればいい」

とは限りません。

人によっては、

必要なところに力を入れながら、必要のないところを緩める

という身体の使い方が重要になります。


だから便秘対策には「2つの方向」があります

パーキンソン病の便秘を考えるときには、

① 腸が働きやすい環境をつくる

そして、

② 便を出しやすい身体をつくる

この両方から考えることが大切です。


① 日頃から「腸が働きやすい環境」をつくる

普段からできることとして、

・適切な水分をとる
・食物繊維を含む食事をとる
・極端に偏らない食生活を心がける
・身体活動量を確保する
・便意を我慢しすぎない
・排便しやすい生活リズムをつくる

などがあります。

そして、近年注目されているのが、

「腸内細菌」

です。


食物繊維は「便を増やすだけ」ではありません

食物繊維というと、

「便秘だから食物繊維を摂りましょう」

というイメージが強いかもしれません。

しかし、食物繊維には別の役割もあります。

私たちが消化しきれなかった一部の食物繊維は大腸まで届き、

腸内細菌のエサ

になります。

そして腸内細菌がそれらを利用することで、

短鎖脂肪酸(SCFA)

と呼ばれる物質が作られます。

代表的なものには、

酢酸・プロピオン酸・酪酸

などがあります。

短鎖脂肪酸は、腸の粘膜や免疫、炎症などとの関係が研究されています。

パーキンソン病では、健常者と比較して腸内細菌の構成や短鎖脂肪酸に違いがみられることも報告されています。

ただし、

「短鎖脂肪酸を増やせばパーキンソン病が改善する」

と証明されているわけではありません。

まだ研究が続いている段階です。

大切なのは、

「便を出すための食事」だけではなく、「腸内細菌が働きやすい環境を普段からつくる」

という視点を持つことです。


② 「出せる身体」をつくる

ここは、運動を専門とする私たちが特に大切にしたいところです。

食事や水分をしっかり意識しているのに、

「便意はあるのに出にくい」

という方がいます。

こうした場合には、腸の中だけでなく、

「便を出すとき、身体をどう使っているか?」

にも目を向ける必要があります。


排便にも「姿勢」があります

便を出しやすくするためには、

ただ便座に座ればよいわけではありません。

たとえば、

足が安定している

股関節が曲がる

身体を少し前に傾けられる

腹圧をかけやすくなる

骨盤底・肛門周囲を緩める

という一連の身体の使い方があります。

実際に、排便姿勢によって肛門直腸部の角度や、排便に必要ないきみやすさが変化することが報告されています。

そのため、

「どんな姿勢で排便しているか」

も大切なポイントになります。


股関節や骨盤周囲が硬いことも関係する?

ここも重要なポイントです。

排便姿勢では、

股関節を曲げる

骨盤を適切な位置に動かす

身体を前に傾ける

といった動きが必要になります。

ところが、

・お尻周りが硬い
・股関節が動きにくい
・ももの裏が硬い
・骨盤を前後に動かしにくい

といった状態があると、

排便しやすい姿勢そのものを作りにくくなる可能性があります。

例えば、身体を前に倒しているように見えても、

股関節や骨盤が十分に動かず、

背中だけを丸めて前に倒れている

ということもあります。

つまり、

「前傾できるか」だけではなく、どこから前傾しているか

も重要なのです。

ただし、

「ハムストリングスが硬いから便秘になる」

と直接証明されているわけではありません。

筋肉の柔軟性そのものが便秘の原因というより、

股関節・骨盤が動きにくい

排便しやすい姿勢を作りにくい

腹圧や骨盤底を使いにくくなる

という間接的な影響として考える方が適切です。


股関節の筋肉と骨盤底は意外と近い関係にあります

さらに面白いことが分かってきています。

股関節を動かす筋肉のひとつに、

「内閉鎖筋(ないへいさきん)」

があります。

これは股関節の深いところにある筋肉ですが、

骨盤底を構成する肛門挙筋と非常に近い位置にあります。

近年の解剖学的研究では、

内閉鎖筋と肛門挙筋が「閉鎖筋膜」という膜を介して広い範囲で接している

ことが示されています。

つまり、

股関節を動かす筋肉

と、

排便にも関係する骨盤底筋

は、完全に別々に存在しているわけではありません。

股関節周囲の動きが骨盤底機能に影響する可能性を考えるうえで、興味深い解剖学的つながりです。

ただし、ここも注意が必要です。

「内閉鎖筋をストレッチすれば便秘が治る」

ということが証明されているわけではありません。

あくまで、

股関節・骨盤周囲の動きも含めて排便という動作を考える必要がある

ということです。


「骨盤底筋を鍛える」だけではない

骨盤底筋という言葉を聞くと、

「締めるトレーニング」

をイメージする方が多いと思います。

もちろん、骨盤底筋を収縮させる能力が必要な場面もあります。

しかし、排便ではむしろ、

適切なタイミングで緩める

ことが重要です。

そのため、

締める

緩める

呼吸をしながら腹圧を高める

それでも出口は力ませない

というように、

力を入れる・抜く・組み合わせる

という練習が必要になる場合があります。

パーキンソン病では、筋力そのものだけでなく、

「必要な筋肉を必要なタイミングで使う」

という運動の調整が難しくなることがあります。

排便についても、

「筋肉が弱いから出ない」

だけではなく、

「うまく使い分けられているか?」

という視点を持つことが大切です。



自分の便秘はどちらに近い?

たとえば、

「何日も便意がない」
「便が硬い」

という場合には、

腸の輸送や水分、食事、活動量などの影響を考えます。

一方で、

「便意はある」
「出口まで来ている感じがする」
「柔らかいのに出にくい」
「強くいきまないと出ない」
「出した後も残っている感じがする」

という場合には、

排便するときの出口側の問題も考える必要があります。

さらに、

「便座に座ると足が浮いてしまう」

「前に傾こうとすると背中だけが丸くなる」

「股関節が曲げにくい」

「いきむとお尻まで全部力が入る」

といった場合には、

排便時の姿勢や身体の使い方にも改善できる部分があるかもしれません。

同じ「便秘」でも、

原因によって必要な対策は変わる

ということです。


腸と脳は別々ではありません

そして最近、

「腸−脳相関(Gut–Brain Axis)」

という考え方が注目されています。

腸と脳はまったく別々に働いているのではなく、

自律神経、免疫系、腸内細菌、腸内細菌が作る代謝物などを介して、

お互いに影響し合っている

と考えられています。

パーキンソン病でも、この腸−脳相関について多くの研究が行われています。

ただし、

「腸を整えればパーキンソン病が治る」

という話ではありません。

まだ分かっていないことも多くあります。

それでも、

「便秘は単なるお腹だけの問題ではない」

という視点は大切になってきています。


そして「薬の効き方」にも腸が関係する可能性があります

パーキンソン病では、もう一つ知っておきたいことがあります。

レボドパは主に小腸で吸収されます。

薬を飲んだ後、



小腸で吸収

血液

脳へ

という流れをたどります。

そのため、胃から小腸へ薬が送られるのが遅くなるなど、消化管の状態によって、

薬の効き始めが遅れたり、効き方がばらついたりする

ことがあります。

さらに近年では、一部の腸内細菌がレボドパの代謝に関係する可能性についても研究されています。

ただし、

「腸内細菌を整えれば薬が必ず効きやすくなる」

ということではありません。

薬が効きにくい原因は腸だけではないからです。

それでも、

薬が通る場所である胃や腸の状態にも目を向ける

ことは、パーキンソン病を考えるうえで大切な視点のひとつです。



今日から確認してみましょう

便秘が気になる方は、

「何を食べればいい?」

だけでなく、

「自分はどんな出にくさなのか?」

も観察してみましょう。

・何日に1回くらい排便している?
・便は硬い?
・便意そのものが少ない?
・便意はあるのに出ない?
・強くいきんでいる?
・排便後も残っている感じがする?
・トイレで足は安定している?
・股関節を曲げて座れている?
・身体を少し前に傾けられている?
・前傾したとき、背中だけが丸くなっていない?
・いきんだとき、お尻や肛門まで一緒に力んでいない?

こうした違いが、

自分に合った対策を考えるヒント

になるかもしれません。


まとめ

便秘になったら、

まずは苦しさを我慢しないこと。

必要に応じて薬を使うことも大切です。

そのうえで、

「出す」だけで終わらせない。

日頃から、

腸が働きやすい環境をつくること

そして、

便を出しやすい身体をつくること

この両方から考えてみましょう。

パーキンソン病の便秘には、

腸の動き

腸内環境

腹圧と骨盤底の協調

股関節や骨盤周囲の動き

排便するときの姿勢

など、さまざまな要素が関係しています。

さらに、腸と脳との関係や、薬の吸収との関係についても研究が進んでいます。

便秘を、

「出ないから薬を飲む」

だけで終わらせず、

「自分はどこで出にくくなっているんだろう?」

と身体を観察するきっかけにしてみてください。


PDit スタジオ銀座本店
認定作業療法士 属 崇維(サッカ タカヨシ)


参考文献

Fasano A, et al. Lancet Neurol. 2015.

Pfeiffer RF. Parkinsonism Relat Disord. 2011.

Knudsen K, et al. Mov Disord. 2017.

Muro S, et al. Anatomical basis for contribution of hip joint motion by the obturator internus to defaecation/urinary functions by the levator ani via the obturator fascia. J Anat. 2023;242(4):657–665.

Sakakibara R, et al. Bladder, bowel, and sexual dysfunction in Parkinson’s disease. Parkinsons Dis. 2011.

van Kessel SP, et al. Gut bacterial tyrosine decarboxylases restrict levels of levodopa in the treatment of Parkinson’s disease. Nat Commun. 2019.

Barichella M, et al. Mov Disord. 2009.

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