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「私もパーキンソン病になりますか?」その一言から考えた、家族のための“発症前の運動”

「私もパーキンソン病になりますか?」その一言から考えた、家族のための“発症前の運動”

こんにちは。
PDitの小川順也です。

先日、ご家族の方から、こんな質問をされました。

「母もパーキンソン病なんです。そして、祖母もパーキンソン病でした」

そして、

「これって遺伝生ですかね?」

「私もパーキンソン病になるんでしょうか?」

「何か今から予防できることはありますか?」

と。

 

そりゃそうだよな、と思いました。

おばあちゃんがパーキンソン病になり、お母さんもパーキンソン病になった。

そして、その姿を一番近くで見てきたご家族です。

「次は自分なんじゃないか」

そう考えてしまうのは当然だと思います。

その方は現在、特に運動習慣がありませんでした。

そこで僕は、

「だったら、今から運動を始めましょう」

とお話ししました。

でも、その話をしたあと、僕自身が改めて考えました。

パーキンソン病になった方に運動を届けることは、もちろん大切。

でも、

まだ発症していない家族に対して、私たちにできることはないのだろうか?

今日は、そんな話をしたいと思います。


パーキンソン病は遺伝するの?

まず、一番気になるところだと思います。

結論からいうと、

パーキンソン病の大部分は、単純に親から子へ遺伝する病気ではありません。

日本神経学会は、PDのほとんどが遺伝歴のない孤発型で、遺伝性PDはおよそ5〜10%と説明しています。近年のGeneReviewsでも、単一遺伝子の病的変異によるmonogenic PDは全PDの約5〜10%と推定されています。(日本神経学会)

ただし、

「遺伝しないから家族歴は関係ない」

ということでもありません。

PDにはLRRK2、PRKN、PINK1、SNCAなど、発症に関係する遺伝子があります。またGBAのように、「持っていれば必ず発症する」のではなく、発症リスクを高める遺伝的因子もあります。つまりPDは、単純な「遺伝する・しない」の二択ではなく、遺伝的素因と環境・生活習慣などが複雑に関係する疾患と考えられています。(国際パーキンソン病および運動障害学会)

Parkinson’s Foundationでは、PD患者の家族は一般人口より発症リスクが高いものの、「家族にPDがいる=自分も発症する」という意味ではないと説明しています。(Parkinson’s Foundation)

特に今回のように、

祖母も母もパーキンソン病

というように複数世代にPDがみられる場合、「大丈夫ですよ」と簡単に言い切るのも違うと思います。

家族歴が濃く、遺伝について強い不安がある場合には、神経内科・脳神経内科の主治医や遺伝カウンセリングに相談するという選択肢があります。日本神経学会も、家族歴がある場合のカウンセリングと遺伝子診断について言及しています。(日本神経学会)


では、パーキンソン病は「予防」できるのか?

ここはとても大切です。

2026年現在、

「これをすればパーキンソン病を確実に発症しない」という一次予防法は確立していません。

PDの発症を予防する目的で、運動や食事などを介入して長期間追跡した大規模RCTが十分にあるわけではないからです。最近のレビューでも、リスク因子はかなり明らかになってきた一方、厳密な予防試験や確立した疾患修飾介入にはまだ至っていないと整理されています。(PubMed Central (PMC))

だから、

「運動すればパーキンソン病になりません」

とは言えません。

でも、ここからが重要です。

「発症リスクと関連する、変えられる要因」は少しずつ分かってきています。

最近の予防研究では、特に、

身体活動・運動
健康的な食事
農薬など一部の環境毒への曝露を減らすこと
糖尿病など生活習慣病を予防・管理すること

などが注目されています。(PubMed Central (PMC))

そして、その中で僕が最も注目しているものの一つが、

運動です。


運動している人は、パーキンソン病になりにくい?

2024年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、21の観察研究(13のコホート研究+8の症例対照研究)が解析されました。

結果は、

身体活動量が高い人では、PD発症リスクが約23%低い

というものでした。

さらに、身体活動量が10 MET-h/週増えるごとに、PD発症リスクが約9%低くなるという用量反応関係も報告されています。(PubMed)

もちろん、これは非常に重要な注意点があります。

運動をしていたからPDにならなかったのか。

PDの発症前から何らかの変化が始まっていて、そのため活動量が低くなっていたのか。

観察研究だけでは、完全には切り分けられません。

つまり、

「運動がPDを予防する」と因果関係が証明されたわけではありません。

それでも複数の研究を統合しても、身体活動量とPD発症リスクとの逆相関が繰り返し確認されていることは、とても興味深い結果です。(PubMed)


なぜ運動が脳にいい可能性があるのか?

ここで出てくるのが、

BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor:脳由来神経栄養因子)

です。

BDNFは、神経細胞の生存や可塑性などに関係するタンパク質です。

PD患者を対象にした2024年のシステマティックレビュー・メタ解析では、5つのRCT、216名を統合した結果、運動群で血清BDNFが有意に増加していました。(PubMed)

また、運動にはBDNFだけでなく、

神経可塑性、炎症、酸化ストレスなど、脳の健康に関係するさまざまな経路に作用する可能性

が考えられています。(PubMed Central (PMC))

ただし、ここでも一つ注意があります。

「運動 → BDNF増加 → ドパミン神経を保護 → PDを予防できる」

と一直線に証明されたわけではありません。

BDNF上昇は、運動が脳に与える作用を説明する有力なメカニズムの一つですが、発症前の健康な人でPD予防まで証明されたわけではない。

だからこそ、今後さらに研究する価値がある領域だと思っています。


運動以外に、今できそうなことは?

PDの一次予防という視点では、運動だけを見ればいいわけではありません。

現在の研究からは、例えば次のような方向性が考えられています。

① 日常的に身体を動かす

現時点で、最も一貫して「低いPD発症リスク」と関連している生活習慣の一つです。特に中〜高強度の身体活動が注目されています。(PubMed)

② 地中海食など、健康的な食生活を意識する

野菜、果物、豆類、全粒穀物、魚、ナッツ、オリーブオイルなどを中心とする地中海食やMIND食への高い遵守は、PDリスクが低いことと関連する研究があります。ただし、こちらも「食事によってPDを予防できる」と証明された段階ではありません。(PubMed Central (PMC))

③ 農薬などへの過剰な曝露をできるだけ避ける

農薬曝露とPD発症リスクとの関連は、多くの疫学研究で報告されています。特に職業的な高曝露についてのエビデンスが蓄積されています。(PubMed Central (PMC))

④ 糖尿病など、一般的な生活習慣病を予防・管理する

2型糖尿病もPD発症リスクとの関連が報告されています。結局のところ、運動・食事・体重管理など「脳だけでなく身体全体を健康にすること」がPD予防研究でも重要になってきています。(PubMed Central (PMC))

ちなみに、コーヒーやカフェイン摂取、喫煙もPDリスクの低さとの関連が報告されています。

でも、「PD予防のためにタバコを吸いましょう」は絶対に違います。 喫煙にはがんや心血管疾患など明確な健康被害がありますし、カフェインなどについても観察研究には逆因果などの問題があります。PDだけを見て予防策として推奨するものではありません。(PubMed Central (PMC))


今日、僕が一番考えたこと

ここまで論文を調べて、改めて今日のご家族さんの言葉を考えました。

「私もなるんでしょうか?」

「何か予防できませんか?」

この質問に、

「遺伝性PDは一部なので、あまり心配しなくて大丈夫ですよ」

だけで終わっていいのだろうか。

僕は違うと思いました。

その人が感じている不安は本物です。

だったら、

不安を抱えながら待つのではなく、今からできることを一緒に始める。

その選択肢をつくることも、僕たちPDitの役割なんじゃないかと思ったんです。


PDitは「発症した後」だけを支える組織でいいのか?

PDitはこれまで、

「診断日から安心して運動を始められる社会」

を目指してきました。

診断されたらすぐ運動につながる。

身体を評価する。

自分に必要な運動を知る。

そして、それを続けられる環境をつくる。

これを社会のインフラにしたいと思っています。

でも今日、

そのビジョンがもう一つ広がりました。

診断された本人だけじゃない。

その隣で、不安を抱えている家族も守りたい。

お母さんがPD。

お父さんがPD。

おじいちゃん、おばあちゃんもPD。

そして、

「いつか自分も……」

と思いながら生活している家族がいます。

だったら、その人たちにも運動する場所があっていい。


「家族も元気に。運動で未来に備える。」

これはまだ構想段階です。

来年以降になるかもしれません。

でも、PDitでいつか、

PDのご家族を対象とした“発症前からの健康づくり”

をつくりたいと思っています。

運動習慣をつくる。

体力を測る。

食事や睡眠などの生活習慣を学ぶ。

PDについて正しく知る。

家族歴が強く不安があれば、適切な医療や遺伝カウンセリングにつなぐ。

そして何より、

「いつ発症するんだろう」と怖がりながら生活するのではなく、「自分の未来のために今日できることをやろう」と思える場所にしたい。

これはPDの一次予防という研究テーマにもつながっていくと思っています。

そして、運動によって本当にPDの発症リスクを下げられるのか。

家族歴のある人ではどうなのか。

どんな運動を、どのくらい、いつから行うのがいいのか。

ここはまだ分かっていないことがたくさんあります。

だからこそ、

サービスをつくるだけではなく、研究もしていきたい。

と思っています。


「発症してから運動」から「発症する前から健康をつくる」へ

これは、PDitが目指しているインフラのもう一つ先なのかもしれません。

これまでは、

診断 → 情報 → 評価 → 運動 → 継続

というインフラを考えてきました。

でも未来は、

家族・発症前 → 健康づくり → 診断 → 運動 → 継続

までつながっていてもいい。

もちろん、今の医学ではPDを確実に予防する方法はありません。

だから「PD予防プログラム」と断定して売るようなことはしたくありません。

でも、

運動習慣を持つこと。

生活習慣を整えること。

適切な情報を知ること。

それらはPDだけでなく、心血管疾患、糖尿病、フレイルなど、さまざまな病気の予防や健康維持にもつながります。

そしてPDについても、身体活動量が高い人ほど発症リスクが低いというエビデンスが積み上がっている。

だったら、

何もしない理由はない。

僕はそう思います。


本人も、家族も、未来も守るPDitへ

今日、ご家族さんからいただいた質問で、

PDitがこれからやりたいことが、また一つ増えました。

パーキンソン病になった人を支える。

診断されたらすぐ運動につなぐ。

適切な情報を届ける。

地域とつなぐ。

そして、その家族にも運動と健康づくりを届ける。

本人だけじゃない。

家族も元気に。

そして、

「パーキンソン病になるかもしれない」という不安を、「今日からできること」に変えていく。

そんな仕組みも、PDitが目指すインフラの一部にしていきたいと思っています。

まだ構想です。

でも、こういう一つひとつの声から、PDitはこれまでも新しい活動をつくってきました。

だから今回も、形にしていきたい。

良くなることを、あきらめない。

発症した後だけではなく、その前から。

本人だけではなく、その家族まで。

PDitができることを、これからもっと広げていきます。

PDit
小川順也


参考文献

  1. Jiang Y, et al. Physical activity and risk of Parkinson’s disease: an updated systematic review and meta-analysis. J Neurol. 2024;271:7434–7459. 身体活動とPD発症リスクについて21研究を統合したメタ解析です。(PubMed)

  2. Kaagman DGM, et al. Effects and Mechanisms of Exercise on Brain-Derived Neurotrophic Factor (BDNF) Levels and Clinical Outcomes in People with Parkinson’s Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis. Brain Sci. 2024;14:194. (PubMed)

  3. GeneReviews. Monogenic Parkinson Disease Overview. Updated 2025. 単一遺伝子性PDは全PDの約5〜10%と推定されています。(NCBI)

  4. 日本神経学会. 「(疾患・用語編)パーキンソン病」. 遺伝性PDを5〜10%としています。(日本神経学会)

  5. Preventing Parkinson’s disease in the context of movement disorders: a narrative review of current evidence and future directions. 2026. 運動、地中海/MIND食、環境曝露など一次予防研究をまとめた最新レビューです。(PubMed Central (PMC))

  6. Update: Protective and risk factors for Parkinson disease. 2024. PDの保護因子・危険因子と予防研究の限界を整理したレビューです。(PubMed Central (PMC))

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