パーキンソン病の症状悪化に関わる要因とは?孤独・ストレス・タバコと生活習慣を研究から考える
2026.09.26 更新

パーキンソン病の症状悪化に関わる要因とは?孤独・ストレス・タバコと生活習慣を研究から考える
こんにちは。
PDit(ピディット)の小川順也です。
「パーキンソン病の進行を少しでも遅らせたい」
「普段の生活で、何に気をつければいいですか?」
パーキンソン病の方とお話ししていると、こうした質問をよくいただきます。
今回の朝礼では、孤独・過度なストレス・タバコを中心に、日々の生活で気をつけたいことをお話ししました。
ただし、この3つを「パーキンソン病の進行を速めることが確立した要因」と、ひとまとめにすることはできません。症状との関連が調べられているもの、全身の健康への悪影響が明らかなものなど、それぞれ根拠が異なります。
私が今回お伝えしたいのは、
「進行を怖がりながら暮らす」のではなく、「今の身体と生活を支えるために、整えられるところを見つける」
ということです。
研究で分かっていることと、私たちが現場で大切にしていることを交えながら、ご紹介します。
最初に|「症状が強くなること」と「病気そのものの進行」は同じではありません
例えば、緊張する場面で震えが強くなることがあります。実際に、心理的な負荷のかかる課題中に、パーキンソン病の震えが増えることを確認した研究があります。しかし、その場で震えが増えたからといって、神経細胞の障害が急に進んだと判断することはできません。
また、「ある生活習慣がある人ほど症状が重かった」という研究結果も、その生活習慣が原因だと証明したことにはなりません。症状が重いために外出や人との交流が難しくなるなど、逆方向の影響も考えられます。
この違いを意識することが、情報を正しく受け取るうえで大切です。
そして、これからお伝えする内容は、症状が進んだことを、本人の努力不足や性格のせいにするためのものではありません。
一人で頑張り続けるのではなく、周囲の力も借りながら生活を整える。そのためのヒントとして読んでいただけたらと思います。
① 孤独・社会的孤立|「困ったときに話せる人」がいること
診断されたあと、
「病気のことを人に知られたくない」
「以前のように動けない姿を見られたくない」
「外に出るのがおっくうになった」
と、人との関わりが減ってしまう方がいます。
私が気にかけているのは、人に会う機会が減ることと一緒に、外出や身体を動かす機会まで少なくなっていないか、ということです。
研究では、孤独と症状にどのような関係があるのでしょうか?
2020年に発表された研究では、パーキンソン病の方1,527名の回答を分析したところ、孤独を感じている方ほど、本人が報告する症状が重く、生活の質も低いという関連が見られました。
ただし、これは一時点の情報を分析した研究です。「孤独が症状を重くした」のか、「症状が重いために孤独を感じやすくなった」のかは判断できません。
さらに2026年には、地域で暮らす3,099名、平均年齢約78歳の方を継続的に調べた研究が発表されました。孤独感の強さは、その後のパーキンソニズムの重さや、運動機能低下の速さと関連していました。
ここでいう「パーキンソニズム」は、動作の遅さやこわばりなどの運動症状を指し、パーキンソン病だけで起こるものではありません。この研究も、主に地域の高齢者を対象としており、パーキンソン病と診断された方の進行を、孤独が直接速めると証明した研究ではないことに注意が必要です。
大切なのは、友達の人数ではありません
私は、こうした研究を「もっと友達を増やさなければ」と受け取ってほしくありません。
一人で過ごすことが好きな方もいます。人に囲まれていても孤独を感じる方もいます。「一人でいること」と「孤独を感じること」は同じではありません。
PDitで大切にしたいのは、
「困ったら、この人に話してみよう」
と思える相手や場所を持つことです。
家族、友人、地域の支援者、医療職、同じ病気の仲間。必ずしも深い付き合いでなくても構いません。
挨拶を交わす人がいる。近況を話せる場所がある。調子が悪いときに相談できる。
そんな“ゆるいつながり”をいくつか持てることが、日々の安心につながると私は考えています。
② 過度なストレス|なくすよりも、一人で抱え続けない
仕事が忙しい時期、親の介護、お子さんの受験、人間関係、将来への不安。
私たちの現場でも、こうした負担が重なったときに、
「震えが強くなりました」
「いつもより動きにくいです」
「薬が切れる時間が、以前よりつらく感じます」
と話される方がいます。
ストレスによる症状の悪化は、人を対象とした研究でも報告されています
2021年の研究では、パーキンソン病の方5,000名への調査で、ストレスによって運動症状、特に震えや、運動以外の症状が悪化すると回答されていました。ストレスの強さと、生活の質の低さとの関連も見られました。ただし、結果は主に自己申告に基づいています。
自己申告だけでなく、実際に震えを測った研究もあります。震えのあるパーキンソン病の方69名を対象とした2017年の研究では、認知的な負荷のかかる課題中に震えが増え、レボドパによる震えの軽減効果も、安静時より小さくなっていました。
つまり、ストレスに伴う動きにくさを、単に「気のせい」と片づけることはできません。
一方、ストレスによる症状の変化と、神経細胞の障害が進むことは、分けて考える必要があります。
パーキンソン病を模したラットの実験では、慢性的なストレスが神経細胞の損失や運動障害を強めたという報告があります。しかし、動物実験の結果をそのまま人に当てはめることはできません。人でストレスを減らすことが神経変性そのものを遅らせるかについては、これらの研究からは結論づけられません。
「ストレスを感じないようにしなきゃ」と思わなくて大丈夫です
「ストレスがよくない」と聞いて、ストレスを感じること自体が怖くなってしまったら、それもつらいですよね。
私がお伝えしたいのは、ストレスをゼロにすることではありません。
「全部、自分で何とかしなければ」と抱え続けないことです。
介護が大変なら、家族や地域の相談窓口に話してみる。仕事の負担が大きいなら、役割や時間の調整を相談する。気持ちのつらさも、主治医や身近な専門職に伝える。
休むことも、人に頼ることも、生活を守るための選択肢にしてほしいと思っています。
③ タバコ|「PDの進行」と「全身への健康被害」を分けて考える
タバコについては、特に丁寧に説明したいと思います。
まず、喫煙が、がん、心臓や血管の病気、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などのリスクを高めることは明らかです。禁煙には、これらの病気のリスクを減らす健康上の利益があります。
一方で、**「パーキンソン病と診断された後に喫煙すると、必ず病気の進行が速くなる」**と一律に言えるわけではありません。
2004年に発表された8年間の前向き追跡研究では、喫煙者と非喫煙者で、パーキンソニズムや認知機能などの悪化に統計的な有意差は認められませんでした。
ただし、その研究だけを根拠に「喫煙は影響しない」とも言えません。追加で確認した2019年の追跡研究では、現在の喫煙と、認知機能低下の速さとの関連が報告されています。評価する症状や研究条件によって結果が異なり、神経変性への因果関係が確定したわけではありません。
「発症するリスク」と「診断された後の経過」も、別の問題です。一部の研究結果だけを切り取って、喫煙を予防や治療として勧めるべきではありません。
だから私は、
「タバコは必ずPDを進めるからやめよう」ではなく、
「全身の健康を守り、これからも活動できる身体を大切にするために、喫煙は避けよう」
とお伝えしたいと思っています。
禁煙も、気合いだけで取り組む必要はありません。医療機関での相談や治療を利用する方法があります。
④ 生活習慣|運動・睡眠・食事を、別々に考えない
朝礼では、運動不足、睡眠不足、偏った食事、暴飲暴食、過度な飲酒についても触れました。
これらがすべて、直接パーキンソン病の神経変性を速めると証明されているわけではありません。ただ、毎日の動きやすさや体調を考えるうえで、生活全体に目を向けることは大切です。
運動は「一度頑張る」より「続けられる形」に
早期パーキンソン病の方237名を中央値5年間追跡した研究では、観察期間を通して身体活動量が高かった方ほど、姿勢・歩行の安定性や日常生活動作などの低下が緩やかでした。
ただし、これは観察研究です。運動による影響だけでなく、良い状態を保てているから活動しやすいという逆方向の関係も考慮する必要があります。
私たちが大切にしたいのも、無理な運動を一度だけ頑張ることではなく、その人の状態に合った運動を生活の中に置くことです。
眠れないことを「生活習慣のせい」だけにしない
パーキンソン病の睡眠の問題には、夜間の動きにくさ、薬の影響、睡眠時無呼吸など、さまざまな要因が関わります。眠れない日が続くときは、自分の努力不足と考えず、主治医に相談することが大切です。
運動と睡眠のつながりを調べた研究もあります。2020年のランダム化比較試験では、55名が運動群と睡眠衛生の指導を受ける群に分かれ、16週間の監督下での運動によって、睡眠検査で測定した睡眠効率などが改善しました。これは睡眠への効果を示す研究で、神経変性の抑制を証明したものではありません。
食事は極端に偏らせず、飲酒も見直す
食事では、特定の食品を避けることばかりに気を取られるのではなく、必要なエネルギーやたんぱく質などを取れているかも確認したいところです。
食欲低下や体重減少、飲み込みにくさがある場合は、医師や管理栄養士などへの相談が勧められています。また、飲酒は薬との相性や睡眠にも関わるため、量や飲み方を見直すことも大切です。
「運動だけ」「睡眠だけ」「食事だけ」と切り離すのではなく、暮らし全体の中で、無理なく整えられる部分を探していきましょう。
私が気にかけているのは、生活の中で起こる「悪循環」です
今回の朝礼を通して、一番伝えたかったのはここです。
私は日々の支援の中で、次のような流れに気をつけたいと考えています。
病気への不安が強くなる
→ 人に会う機会が減る
→ 悩みを一人で抱える
→ 外出や運動の機会が減る
→ さらに外へ出ることが負担になる
→ 人とのつながりが減る
これは、すべての方に同じ順番で起こると証明された経過ではありません。研究で示される関連と、現場で聞く生活の変化を合わせて考えた、支援のための見方です。
だからこそ、全部を一度に変えようとしなくてもいいと思っています。
友人に連絡をしてみる。
困っていることを一つ、専門職に話す。
参加できそうな運動の場を探してみる。
その循環のどこか一か所に、小さな変化をつくる。
そこから始めてほしいと思っています。
PDitが届けたいのは、運動と「一人で抱え込まなくていい場所」
私たちは、運動を提供するだけでなく、困ったときに相談でき、人とのつながりを持てる場所をつくりたいと考えています。
PD Cafeで近況を話す。オンラインで一緒に身体を動かす。パーソナルトレーニングの中で、最近の生活について相談する。
その中で、
「自分だけじゃなかった」
「今度、先生にこのことを聞いてみよう」
「来週もまた参加しよう」
と思えるきっかけを届けたい。
それは、参加すれば病気の進行が止まるという意味ではありません。毎日を支える人や場所を、少しずつ増やしていくことが、私たちの目指す支援です。
最後に|「何をしたら進む?」より、「今日、何を整えられる?」
今回の内容は、「パーキンソン病を進める3つの悪い習慣」という単純な話ではありません。
孤独やストレスと症状の関連を調べた研究はありますが、神経変性そのものへの影響とは区別する必要があります。喫煙については、PDの進行との関係だけでなく、明らかな全身への健康被害を踏まえて考えることが大切です。
私がお伝えしたいのは、
孤立しすぎない。
過度なストレスを抱え込み続けない。
全身の健康を守る生活を、できる範囲で整える。
ということです。
そして、調子が悪い日や前向きになれない日があっても、自分を責めないでください。生活を整えることは、主治医による治療の代わりではなく、治療と一緒に暮らしを支える取り組みです。
「これをしたら進んでしまうのかな」と恐れるより、
「今日、自分の身体と生活のために、何ができるだろう?」
と考えてみる。
一人で頑張り切る必要はありません。
私たちも、皆さんの「相談できる相手」の一人でありたいと思っています。
良くなることを、あきらめない。
誰かとつながりながら、できることを一つずつ積み重ねていきましょう。
PDit
小川順也
参考文献
1.孤独とPDの症状・生活の質
Subramanian I, Farahnik J, Mischley LK. Synergy of pandemics-social isolation is associated with worsened Parkinson severity and quality of life. npj Parkinson’s Disease. 2020;6:28.
doi:10.1038/s41531-020-00128-9.
2.地域住民における孤独とパーキンソニズムの縦断研究
González DA, et al. Loneliness predicts worse Parkinsonism: a longitudinal, community-based, clinical-pathological study. npj Parkinson’s Disease. 2026;12:182.
doi:10.1038/s41531-026-01366-z.
3.ストレスと症状に関する5,000名の調査
van der Heide A, et al. Stress and mindfulness in Parkinson’s disease—a survey in 5000 patients. npj Parkinson’s Disease. 2021;7:7.
doi:10.1038/s41531-020-00152-9.
4.認知的ストレスと震えに関する実験研究
Zach H, et al. Cognitive Stress Reduces the Effect of Levodopa on Parkinson’s Resting Tremor. CNS Neuroscience & Therapeutics. 2017;23(3):209–215.
doi:10.1111/cns.12670.
5.ストレスと神経変性に関する動物研究
Smith LK, et al. Stress accelerates neural degeneration and exaggerates motor symptoms in a rat model of Parkinson’s disease. European Journal of Neuroscience. 2008;27(8):2133–2146.
doi:10.1111/j.1460-9568.2008.06177.x.
6.喫煙と診断後の経過に関する8年間の追跡研究
Alves G, et al. Cigarette smoking in Parkinson’s disease: influence on disease progression. Movement Disorders. 2004;19(9):1087–1092.
doi:10.1002/mds.20117.
7.喫煙を含む生活習慣とPDの経過
Paul KC, et al. The association between lifestyle factors and Parkinson’s disease progression and mortality. Movement Disorders. 2019;34(1):58–66.
doi:10.1002/mds.27577.
8.継続的な身体活動と長期的な経過
Tsukita K, Sakamaki-Tsukita H, Takahashi R. Long-term Effect of Regular Physical Activity and Exercise Habits in Patients With Early Parkinson Disease. Neurology. 2022;98(8)–e871.
doi:10.1212/WNL.0000000000013218.
9.運動と睡眠に関するランダム化比較試験
Amara AW, et al. Randomized, Controlled Trial of Exercise on Objective and Subjective Sleep in Parkinson’s Disease. Movement Disorders. 2020;35(6):947–958.
doi:10.1002/mds.28009.
生活上の注意に関する参考資料
CDC「Cigarette Smoking」、Parkinson’s Foundation「Understanding Sleep Problems in Parkinson’s」「Diet & Nutrition」。
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