「歩ける。でも歩きにくい」パーキンソン病の“できる”と“困っている”の間
2026.08.14 更新
こんにちは。
PDitスタジオ銀座本店 作業療法士 属 (サッカ)です。
「ふらつく感じがする。でも、実際にはふらついていないと言われた。」
「手が使いにくくなった。でも、診察ではちゃんと動いている。」
「歩ける。でも以前とは明らかに違う。」
パーキンソン病の方とお話ししていると、このような“うまく説明しにくい困りごと”を伺うことがあります。
診察では「まだできていますね」と言われる。
でも、自分では確かに変化を感じている。
このようなとき、どちらかが間違っているとは限りません。
実は、
「できるか、できないか」と「以前と同じようにできるか」は、少し違う問題です。
今回は、診察室では見えにくいパーキンソン病の**「できるけれど困っている」**についてお話しします。
この記事でわかること
✅ 「できるのに困る」が起こる理由
✅ 診察室と日常生活では何が違うのか
✅ 「できるけれど以前とは違う」を診察で伝えるコツ
「できる」と「問題がない」は同じではありません
例えば、「歩く」という動作を考えてみます。
診察室を歩いて、
転倒せず、
大きくふらつかず、
目的地まで歩くことができた。
この場合、「歩行は可能」と判断されることがあります。
これは決して間違いではありません。
しかし、本人の中では、
「以前より足元が頼りない」
「歩くことを意識しないとうまくいかない」
「人と話しながらだと急に歩きにくくなる」
「歩けるけれど、以前より疲れる」
という変化が起きているかもしれません。
同じ「歩ける」でも、
その中身は大きく違うことがあります。
「できる」と「できない」の間には、たくさんの段階があります
身体の変化を、
「できる」
「できない」
の2つだけで考えてしまうと、その間にある小さな変化を捉えにくくなります。
例えば、
以前と同じように自然にできる
↓
少し違和感があるけれどできる
↓
以前より意識すればできる
↓
時間がかかるけれどできる
↓
疲れるけれどできる
↓
特定の状況では難しくなる
↓
できない
実際の生活では、この間にたくさんの段階があります。
特にパーキンソン病の比較的早い時期では、
「まだできる。でも以前とは違う」
という段階の困りごとが現れることがあります。
なぜ診察室では「できる」と判断されるのでしょうか?
ここで大切なのは、
医師がその困りごとを軽く見ているとは限らない
ということです。
診察では、
- 固縮はどの程度あるのか
- 動作緩慢はあるのか
- 振戦はどうか
- 歩行はどうか
- 姿勢やバランスはどうか
- 薬を変更する必要があるのか
などを限られた時間の中で評価します。
パーキンソン病では、MDS-UPDRSという評価尺度も広く使用されています。
このように、診察室で運動症状を一定の基準で評価することは、病気の状態を把握し、治療方針を決めるためにとても重要です。
一方で、
診察室で数メートル歩くことと、実際の生活の中で一日を過ごすことは同じではありません。
診察室ではできても、生活では条件が変わります
例えば診察室では、
「まっすぐ歩いてください」
と言われ、歩くことだけに集中できます。
しかし実際の生活では、
歩きながら、
人と話したり、
周囲を確認したり、
荷物を持ったり、
目的地を考えたりします。
さらに、
人混み、
狭い場所、
信号、
時間に追われる状況、
疲労なども加わります。
パーキンソン病では、歩きながら別のことを行うような「二重課題」になると、歩行のパフォーマンスが低下することが報告されています。
そのため、
診察室では歩けるのに、駅やスーパーでは歩きにくい
ということが起きても不思議ではありません。
「ふらつく感じがする。でもふらついていない」も同じです
「ふらつく」という言葉も、人によって意味が違います。
実際に身体が左右に大きく揺れている場合もあれば、
「足元が頼りない」
「地面をしっかり感じない」
「身体がどこにあるのか分かりにくい」
「頭がフワッとする」
「歩くことに以前より集中しなければならない」
という感覚を、「ふらつく」と表現していることもあります。
そのため、
見た目に大きなふらつきが確認できないことと、本人が感じている違和感が存在しないことは同じではありません。
大切なのは、
「本当にふらついているのか?」
だけではなく、
「その人は何を“ふらつく”と表現しているのか」
まで整理することです。
本人の感じ方と診察結果が、完全には一致しないこともあります
これは単なる印象だけの話ではありません。
早期のパーキンソン病を対象とした研究でも、患者さん自身が感じている日常生活上の運動障害と、医療者が診察室で評価した運動所見には、ズレが生じることが報告されています。
また、パーキンソン病の方が日常生活で困っている症状には、診察室で評価される運動症状だけでなく、
- 疲労
- すくみ足
- 姿勢制御
- 自律神経症状
- 不安などの非運動症状
といった複数の要素が関係します。
つまり、
「診察ではそれほど悪くない。でも本人は確かに困っている」
という状態が起こることは十分に考えられます。
だからといって、すぐに薬を増やせばいいわけでもありません
ここも非常に重要です。
「以前より動きにくい」
という訴えがあったからといって、必ず薬を増やせば解決するわけではありません。
その動きにくさが、
薬で改善する症状によるものなのか。
睡眠や疲労など、その日の体調によるものなのか。
筋力や柔軟性など身体機能の問題なのか。
身体の使い方によるものなのか。
不安や注意の影響なのか。
原因によって対応は変わります。
また、薬を調整することで、別の症状や副作用が問題になる可能性もあります。
だからこそ主治医は、
「本当に薬を変更する必要があるのか」
を慎重に判断します。
診察で「まだできていますね」と言われたからといって、
「困っていることを分かってもらえなかった」
とは限りません。
医学的な治療として、薬を変更するべき状態なのかを慎重に見極めている場合もあります。
トレーニングでは「できるの中身」を見ます
ここでトレーニングが力を発揮します。
例えば、
「歩けますか?」
だけではなく、
どんな場所だと歩きにくいのか。
何分くらい歩くと崩れてくるのか。
歩きながら話すとどうなるのか。
以前より何を意識しないとできなくなったのか。
終わったあとにどのくらい疲れるのか。
などを確認します。
手の動作でも同じです。
「箸を使えるか」
だけではなく、
どのくらい続けると使いにくくなるのか。
力加減はどうか。
姿勢が変わるとどうなるのか。
他のことを考えながらでも同じようにできるのか。
こうしたところまで見ていきます。
つまり、
「できるか」だけではなく、「どのようにできているのか」を見る。
そして、その違いをトレーニングにつなげ、
実際の生活の中で少しでも「やりやすい」を増やしていくこと
が大切です。
診察では「できます。でも…」まで伝えてみましょう
「歩けますか?」
と聞かれて、
「はい、歩けます。」
だけで終わってしまうと、本当に困っている部分が十分に伝わらないことがあります。
そんなときは、
「できます。でも〇〇です」
まで伝えてみてください。
例えば、
「歩けます。でも、人と話しながらだと足が出にくくなります。」
「字は書けます。でも、5分くらいすると急に小さくなります。」
「箸は使えます。でも、以前よりかなり意識しないとうまく使えません。」
「外出できます。でも、帰宅すると何もできないくらい疲れます。」
「転んではいません。でも、足元が頼りない感じがずっとあります。」
さらに、
「いつ」「どこで」「どのくらい続けると」「何をしているときに」
困るのかまで伝えられると、より具体的になります。
単純な「できる・できない」ではなく、
生活の中で何が変わっているのか
を共有することが大切です。
まとめ
診察室で「できている」と評価されたことと、
本人が「以前とは違う」と感じていること。
この2つは、必ずしも矛盾しません。
医師は診察を通して病気の状態を評価し、
薬などの医学的な治療を変更する必要があるのか
を判断します。
そしてトレーニングでは、
「できるけれど困っている」
という生活の中の小さな変化まで詳しく見ていきます。
どちらか一方が正しいのではなく、
それぞれ違う角度から身体を見ているからこそ、両方が大切です。
特にパーキンソン病の比較的早い段階では、
「できなくなった」
よりも先に、
「やりにくくなった」
「意識しないとできなくなった」
「以前より時間がかかるようになった」
「疲れやすくなった」
という変化が現れることがあります。
その小さな違和感を、
「まだできるから大丈夫」
だけで終わらせず、
どんな状況で、どのように困っているのかを整理していく。
私たちPDitでは、
「できる」と「困っている」の間にある変化
も大切にしながら、その方の生活に合わせたトレーニングを一緒に考えていきます。
PDit スタジオ銀座本店
認定作業療法士 属 崇維(サッカ タカヨシ)
参考文献
- Goetz CG, Tilley BC, Shaftman SR, et al. Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (MDS-UPDRS): scale presentation and clinimetric testing results. Mov Disord. 2008;23(15):2129-2170.
- Sperens M, Georgiev D, Eriksson Domellöf M, et al. Self-Report versus Clinician Examination in Early Parkinson’s Disease. Mov Disord. 2022;37(1):214-219.
- Politis M, Wu K, Molloy S, et al. Parkinson’s disease symptoms: the patient’s perspective. Mov Disord. 2010;25(11):1646-1651.
- Bryant MS, et al. Objective gait and balance impairments relate to balance confidence and perceived mobility in people with Parkinson disease. Phys Ther. 2016;96(11):1734-1743.
- Fuller RL, Van Winkle EP, Anderson KE, et al. Dual task performance in Parkinson’s disease: a sensitive predictor of impairment and disability. Parkinsonism Relat Disord. 2013;19(3):325-328.
- Maetzler W, Domingos J, Srulijes K, Ferreira JJ, Bloem BR. Quantitative wearable sensors for objective assessment of Parkinson’s disease. Mov Disord. 2013;28(12):1628-1637.
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